tictacjintonicのブログ

万人に読まれる可能性のある個人的なメモだと認識しています

タイトルホルダー ('22.6/28)

 今でも思い出す、2020年の東スポ2歳杯(東京スポーツ杯2歳ステークス)の馬券。3番人気だったジュンブルースカイと6番人気だったタイトルホルダーのワイド馬券だ。このレース以来タイトルホルダーを応援しているが、この馬には何度も驚かされている。

まずはこの東スポ杯でダノンザキッドに離されたものの6番人気からの2着。そして皐月賞のトライアルレースである弥生賞でダノンザキッドを下し勝利。皐月賞では8番人気ながら2着。ダービーと菊花賞の前哨戦セントライト記念では振るわなかったが、本番菊花賞ではまさかの逃げ切り勝ち。年末の有馬記念では同期の皐月賞馬エフフォーリア、凱旋門賞から帰国したディープボンドやクロノジェネシスなどに及ばず5着。

年が明けて日経賞から始動したが、菊花賞で圧巻の走りを見せたタイトルホルダーは調整不安のなか勝ち、ステイヤーの最高峰レースである天皇賞・春に向かった。1番人気は凱旋門賞にも出走したディープボンド。クラシックで長距離への適性を示したタイトルホルダーは、長距離レースの超実力者ディープボンドにどこまで通用するのか、そういった意味合いのレースだったように思う。しかし、蓋を開けてみれば1秒の差をつけての圧勝だった。これでタイトルホルダーは、古馬含む現役競走馬の中で長距離最強の称号を手にした。

しかし、先週日曜日に開催された宝塚記念は話が違った。それまでのタイトルホルダーからすると2つの懸念材料があったからだ。1つは距離が短くなることで、スピードについていけないのではないかということである。2つ目は、逃げ・先行馬に富むメンバーだったので、これまで逃げでしか勝ち星を挙げていないタイトルホルダーは本来の実力を出し切れるのかという点である。好メンバーが揃ったということもあり、オッズは割れに割れた。ファン投票でオグリキャップの記録を塗り替えたはずのタイトルホルダーは、エフフォーリアに1番人気を譲ることになった。

レースは抜群にスタートの良かったタイトルホルダーが出ていったが、やはり高速でラップを刻むもう一頭の逃げ馬がハナに立った。少し離れてタイトルホルダーが単騎で続き、そのすぐ後ろ外側にディープボンドがつけ、タイトルホルダーについていく形になった。最終コーナーを回ってくるとき、すぐ後ろにつけていたディープボンドに有利な展開かと一瞬思った。タイトルホルダーはすでに前で逃げていた馬を捉えて先頭に立っていたが、前目につけた馬が最後の直線で中団以降の馬群に飲まれてしまうのはよくあることだ。しかしタイトルホルダーは後ろから来る馬を寄せ付けず、そのまま押し切ってゴールした。僕は中継を見ながら叫んだ。なぜか自然に涙が目に溜まった。

その理由を考えていた。理由の一つには、2歳の時から応援している馬が何度も前評判を覆して、その中でも最も厳しかっただろう宝塚記念を優勝したことがあるだろう。しかしそれだけではなく、弱点を克服する姿にも感銘を受けたのだった。逃げなければ、長距離でなければ勝てないと言われていたのに、そのどちらも克服した。そしてそれは、一瞬の切れ味がすべてになりつつある近代競馬を破壊し得る存在の証明だったように思う。

長距離だろうと、脚を溜めて最後の直線で勝負に出れば勝ち負けできるといったような、ステイヤーの価値が貶められる競馬がずっと続いていた。しかしそれは同時に展開に左右される、相手に左右される側面が強いともいえる。しかしタイトルホルダーは、どの相手でも自分でペースを作る、ペースメイカーが別にいても自分のリズムで走る。そして現役ナンバーワンのスタミナで真っ向勝負に持ち込み、そして勝つ姿は、何度同じレースをしても、それでも勝つという想像ができる。

近年の競馬は、馬場や展開に左右されることが多い。それはもちろん要素の一つであるが、強い馬でも勝てなかったレースの後には、あれこれと言い訳が出てくるものだ。あの馬がこう動いてくれれば、馬場がこうだったら、つまり本来の実力が出せていれば勝てただろうといった類のものである。しかしタイトルホルダーに言い訳はない。常に出せる全てを出し切る、自分の持ち味を生かす、そして勝つ姿にはすがすがしさを感じる。

正直、私的には末脚勝負の競馬が隆盛するのはあまり好きではない。それはそれとして、別のスタイルの競馬や競走馬があっていいはずだと思っているし、そうでないと飽きてしまうと考えている。しかし進歩してきた結果いま在る競馬を壊すのは簡単なことではない。タイトルホルダーは、それを壊す理想の競馬をした。スピードに対応し、スタミナを使い、弱点を克服し、そして現代の競馬を破壊した。その姿に僕は感動したのだった。

この馬は、「名は体を表す」という言葉がよく用いられるが、その名の通り称号を重ねてきた。菊花賞を勝ち、春の天皇賞を勝ち、現役最強のスタミナという称号を得た。そして宝塚記念に勝ったことで、現役最強の競走馬の称号を得ただけでなく、どんな相手でもすべてを出して勝つ、運や要素に左右されない、現代競馬の破壊者という称号も得たのである。

名がつけられたということは、その名が未来を決定することでもある。僕は彼が凱旋門賞を初めて勝った日本馬という称号を手にすることを確信している。